気象庁は、毎月1回、太平洋やインド洋の海水温から、今後の予想をし、エルニーニョまたはラニーニャが起きるのかどうかを調べて、エルニーニョ監視速報を発表しています。
エルニーニョ、ラニーニャについて簡単にまとめておきましょう。
以下、当分の間はエルニーニョの原理について書いてます。

図1  エルニーニョ、ラニーニャの原理(出典:気象庁HP)


どちらの現象も注目点は、南東太平洋(チリやペルー、エクアドルといった南米西岸)の海水温です。この地域の海水温が普段より高い状態が続くとき、エルニーニョと呼び、逆に普段より海水温が低い状態が続くとき、ラニーニャと呼びます。そんなに離れた地域のことがどうして日本に影響を与えるのかと思われるかもしれませんが、地球というのは風や海流によって常にエネルギーが運ばれていて、ある地域の出来事が別の地域に影響を与えることはよくあることです。これを気象学ではテレコネクションと呼んでいます。
ある出来事が遠くに影響を与えるということは多くの皆さんもご存知でしょう。そう、津波はその最たる例。4年前の東日本大震災で発生した津波は遠く離れたアメリカ大陸まで達しました。
他にも、昔フィリピンのピナトゥボ山という火山が噴火したときは、火山灰が偏西風に乗ったり、その上の成層圏に入り込んだりで、北半球の平均気温が大きく下がったほどです。
このように地球の自然は流動的で、ある地域の出来事はそこだけにとどまらないのです。
話を元に戻しましょう。
では、エルニーニョが起きたらどうなるのでしょう。ラニーニャについてはエルニーニョの逆ですから、解説は省きます。
まず、本来、ペルー沖というのは、海岸線から離れる向きに風が吹いていて、そのため、海の底から冷たい海水が上がっていく、湧昇域と呼ばれます。本来は、この海域は比較的冷たいのです。いっぽう、低緯度帯は西向きの風(貿易風)が吹いていますから、これによって、赤道付近で温められた海水は、そのまま西へ、東南アジア付近に吹き寄せられます。東南アジアでは逆に海水温が比較的高いのです。このとき、海面付近の空気が温められた、上昇することでこの付近では低気圧ができます。台風がよくこの付近でできるのはこのためです。これが本来あるべき(理想的な)姿なのです。
しかし、なんらかの原因(まだ分かっていない)で、西向きの風(貿易風)が弱まると、ペルー沖では湧昇が弱くなり、水温が高くなります。また、本来東南アジアまで吹き寄せられるはずの暖かい海水が、風が弱いためにそこまでたどり着かず、少し東側にたまってしまうのです。こうなると東南アジアの海水は逆に下がります。海水温が低いということは、海水の上昇が弱く雲ができにくい、低気圧が弱まることになります。低気圧と高気圧とは単に、周囲より気圧が高いか低いかということですから、東南アジアでの低気圧が弱まると、太平洋高気圧が弱まるのです。こうなると、日本付近への太平洋高気圧の張り出しが弱くなり、冷夏雨がちとなります。また、台風の発生域も、東南アジアより東の暖かい海水のたまり場でよく発生するようになります。こうなると、台風ができてから日本に来るまで、暖かい海水上を長い距離通ってくることになり、勢力が強まる傾向があります。
長々と書いてきましたが要は、
エルニーニョとは、ペルー沖の海水温の低下のことで、冷夏多雨になり、台風の勢力は強まるのです。

気象庁では、ペルー沖の海水温が平年と比べて、 5ヶ月移動平均が0.5℃以上のときエルニーニョと判断します。5ヶ月移動平均とは、前後2ヶ月とその月(1月の5ヶ月移動平均なら11月〜3月の5ヶ月)の平年との差の平均です。海水温の平年との差は月ごとにも大きく変化するので、その平均をとることで、月ごとのばらつきをなくし、水温の傾向のみを見るためです。

長々と書いてきましたが、ここからは気象庁発表のエルニーニョ監視速報を見ていきましょう。
まずは、ペルー沖の海水温と平年との差。

図2  4月の海水温と平年との差

これを見ると、平年との差がペルー沖で黄色の+1.0℃以上なのに対し、東南アジアでは青色の0℃未満、つまり低下していることがわかります。

続いて今後のペルー沖の予想です。

図3  ペルー沖の海水温予想と5ヶ月移動平均水温予測(出典:気象庁HP)


上のグラフは、実際の平年との差。下のグラフは5ヶ月移動平均です。下のグラフが2月までしか表示されていないのは、2月の5ヶ月移動平均が12月〜4月の平均だからである。
昨年の夏もエルニーニョというのを聞いたことを覚えている方もいるかと思いますが、昨年は、5ヶ月移動平均が基準の+0.5℃付近でした。このエルニーニョも4月頃に終息に向かっていました。今後の予想(黄色いボックス)は、昨年よりもはるかに平年との差が大きくなる予想が出ています。
このことから、気象庁は、再びエルニーニョとなる可能性があるとの予想を出しています。
さて、ここまでくるとエルニーニョがこの夏はおきて冷夏多雨となると考えたいところですが、気象庁が発表している3ヶ月予想、暖候気予想では、気温は平年並みか平年より高いと予想されています。降水量に関しても平年並みか平年より多いと予想されています。

図4  3ヶ月予想と暖候気予想の気温(出典:気象庁HP)

図5  3ヶ月予想と暖候気予想の降水量(出典:気象庁HP)

んー、なかなか難しいですね。ちなみに気象庁は、エルニーニョ監視速報で、今後エルニーニョが再発するという予想が出て以降、暖候気予想を見直したが、変更はしないとしています。どういう原理でこの予想が発表されたのか、現段階ではわかりません。ここまで書いてきて結論は不明です。申し訳ありません。エルニーニョによる冷夏傾向を打ち消すなんらかの要因があるのでしょうかね。
エルニーニョと気象庁の発表の意図は現段階ではわからないのでわかり次第また報告したいと思います。今月25日前後にはまた3ヶ月予報が発表されます。

最後に、ここまで全て読んでいただいた方にアンケートです。今年の夏は暑くなると思いますか?それとも例年並みの暑さになると思いますか?あるいは、冷夏になると思いますか?直感で結構です。


この記事を書いたときに分からなかった気象庁暖候期予報のメカニズムは、5月25日の記事「最新の季節予報 今年の夏は? 」で詳しく解説しております。