日常の疑問を記事にすることも必要かと思いたまにはこんな記事を書いてみました。

気象予報士試験を含め、気象学は数式を用いることが多いです。なにしろ物理の一種ですから。そこで定義されるものは、やはり物理的なものなのです。物理的とはなんでしょうか? "物理"と聞くとなんとなく専門的なイメージがある方も多いのではないでしょうか?どことなく日常とはかけ離れたような。しかし、逆説的にも、実は身の回りの多くのことは物理で説明がつくというのが現実です。それでも物理だけでは説明のつかない事柄もたくさんあると思います。その一つが"体感"という概念です。

体感温度という言葉はたまに天気予報で聞くことがありますね。インターネットを調べると複雑な式化がされているのも目にします。式は書きませんが、その式は、温度と湿度と風速という3つの要素だけでできたものです。果たして、これで体感温度が現わせるのでしょうか?

体感というからには人の心情がつきものだと思います。さすがに人の心情を式化することはできませんが、人の心情を大きく左右するものの一つに"変化"があるのではないでしょうか?人はごく些細なことで心が揺さぶられることがよくあります。それは天気という分野でも一緒。その"変化"というのが体感温度の計算に含まれていないのが不思議です。

"変化"。例えば、気温が日中上がっていくとだんだん暑くなってきたと感じますが、その上がり具合でも、1時間に1℃上がった場合と10℃上がった場合では体感は異なるのではないでしょうか?湿度や風速の条件がまったく同じとして、1時間前に15℃だった気温が16℃になった時と、1時間前が6℃だった気温が16℃になった時、今の体感温度の計算では同じ体感温度になります。しかし、多くの人にとっては、後者の場合の方が暑くなったと感じるのではないでしょうか?

なぜこんな疑問が湧いたのか。

実は今日の東京は日中雨が上がって曇り空となりました。夜からはまた降り出してくる予想です。そんな日中、昼過ぎと夕方に外を歩いたところ、昼過ぎはあまり感じなかった雨の気配を夕方感じたのです。しかしアメダスを見てみると湿度も風速もはたまた温度もほとんど同じだったのです。しかし一つ違ったことがありました。それは"変化"です。湿度の推移をみると、朝から昼過ぎにかけては湿度が下がってきていました。しかし夕方になって湿度は上がり始めていたわけです。同じ湿度、同じ温度、同じ風速、なのに違う感覚。これぞまさに体感でしょう。

驚いたことに、体感湿度というものは存在しないようですね。「ジメジメ感じる」とか、「カラッと感じる」湿度というのはありますが、ある温度、ある風速に時の体感湿度を数値化して表すというのは今の所ないようです。天気予報でも体感湿度は〜%ですという予想はあまりありませんね。しかしもし数値化するならば、この"変化"を考えずして表すことはできないでしょう。

気象予報士試験では物理はたくさん問われます。しかし体感といった、実は生活に深く根ざした概念は問われません。ところが気象予報士としては、より日々の生活に近い観点から予想することが求められます。「今日は北風が強くて肌寒く感じましたね。」という質問に、「でも気温は高かったのでそんなに寒くなかったでしょう。」なんて答えるのはふさわしくないでしょう。天気の仕組みを物理的に理解していくことはとても大切なことですが、それをどう生活に結びつけて説明するかというのがとても大切だと感じました。気象を扱う人は、専門的な物理だけでなく、一般的な感覚も養っていく必要がある。こんなことを言うと語弊があるかもしれませんが、この違いこそが物理学者と気象学者、気象予報士の違いなのかもしれません。